【菱(ひし)紋】
斜方形のパターン。その形が菱の葉に似ているため、菱と命名された。このパターンは、織文様から転化したもので、その原初と推定される遺品は、正倉院所蔵・幡垂条飾紐。これは八世紀初めごろの手打組紐で、紫赤・茶・萌黄等の色糸で斜方形に構成されたものである。(伊藤幸作編「日本の紋章」)
菱紋は斜方形を象った紋である。これを菱というのは、その形が菱葉に似ているために名づけれれたもので、初めから菱葉に象ってつくられたものではない。(沼田頼輔著「日本紋章学」)
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<伝統的な菱:もっとも美しい形(高さ)の菱>
武田菱 割り菱

丸に
変り三階菱

<本来の菱:正三角形を二つ合わせた形の菱>
丸に松皮菱 丸に三階菱

・本来の菱 ・・・ 正三角形を二つ合わせた形
・伝統的な菱 ・・・ 一番美しいとされる菱の形(本来の菱に比べて菱の高さが高い)

* 菱の形状について
泡坂妻夫著「家紋の話」にこうあります。

・・『紋章』(我里注:大正十四年(1925)刊、上絵師だった武田正己編『紋章』のこと)では、
「正三角形を二つ合わせた形が菱」と記述されています。(我里注:本来の菱・・下図の緑色の菱)
しかし、『紋章』はこの菱のまま紋に作ると、菱の高さが低すぎて貧弱に見えると述べ、次のような割り出し法を説明しています。
まず基本となる円を描き、これを四等分します。次に円に内接する正方形の一辺・・・に内接する円を描きます。この円と垂線が交わる・・が菱の高さです。(我里注:伝統的な菱・・下図の赤色の菱)
従来の紋帳にはこのような正確な割り出し方はどこにも述べられていません。しかし、描かれている菱は、この割り出し方による菱と同じ形で描かれています。上絵師は長年の勘によって、一番美しい菱の高さを知ったのでしょう。・・・

これを図に起こすと、
<菱の形状には二パターンある>

緑色:本来の菱・・・松皮菱、三階菱、三つ菱
赤色:伝統的な菱・・山口菱、入れ子菱、花菱

ところで、多くの紋帳の巻末には「紋の割り図」が載っており、概ね次のように書かれている。
先ず立筋を引て分廻しを廻して外輪をこしらへ
上下にて各外輪の八分の一をへらして菱を立るなり(「平安紋鑑」)

上図の二つを一つにまとめて表示してみると、
赤色の菱と水色の菱は概ね似た感じであることがわかる。

菱の割り図 三階菱の割り図
平安紋鑑
2015.8.18現在この解釈は間違ってはいないが正確でないと思うに至っている
伝統的な菱 本来の菱
正三角形を二つ
各菱の比較

各菱の比較から、黒色の菱と赤色の菱は概ね似ていると言えると思う。
同様に水色の菱と緑色の菱も概ね似ていると言えると思う。
つまり、紋帳の「菱の割り図の菱」は伝統的な菱であり、三階菱の菱は正三角形を二つ合わせた本来の形の菱で描かれている。


五つ菱の作図例 (2015.9.3)

・五つ菱は円を十割りし、正十角形の対角線を利用してこれを五等分する。この時「上が一つ、左右に各一つ、下が二つ」となるように五等分する。

基本円を三ツ割する二点を結んだ水平線は、半径の二等分線でもあり、従って五つ菱を構成する一番上の菱の高さの線と重なる。よって、作図のポイントは、この水平線と正十角形の対角線との交点を半径とする同心円を描くことにある。
基本円を十割り 同心円が菱の高さ 五つ菱の外周線 五つ菱を構成する線 完成


三つ菱の作図例 (2015.8.20)

・三つ菱は円を六つ割りし、正六角形を三等分して作図する。この時「上が一つ、下が二つ」となるように三等分する。
六つ割り 正六角形 三等分する 菱を塗る 完成


平安紋鑑の三階菱の割り図について (2015.8.19)
丸の中を五つ割りにしている、その一番上の円除いた四つの円を二分の一のサイズで描くと円は8つできる。菱の割りは「外輪をこしらへ上下にて各外輪の八分の一をへらして菱を立てるなり」と紋の割方に書かれており、三階菱の割り図の菱はこれに合致すると、これまではそう思っていたが、この場合の八分の一は基本円を基にしているのに対して菱の幅は基本円の直径より少し一短くなっているのであるから、これは正三角形を二つ合わせた菱ではないことになる。
「三階菱の割」図の「丸の中を五つ割りしている円」の一番下の円の中にある菱の角(かど)の位置を見ると、これまではその円の中心と解釈していたが、改めて見ると中心よりやや上に見えてきた。やはりこの位置は、正三角形を二つ合わせた形の菱を作図した時の位置と合致するのではなかろうか?
そこで、今回は正三角形を意識して、この菱を割り図に落とし込む作図をしてみた。

・平安紋鑑の「松皮菱の割」をベースに「菱が正三角形を二つ合わせた形」を意識して作図したもの。
一番上の菱が、基本円に接している。
外観は頭でっかちな三階菱となる。
作図した一番下の菱の角(かど)は、上図の「三階菱の割」図よりさらに上方の様に見える。私の仮説は正しくないかも知れないし、作図の誤差範囲とも言えるかもしれない。その誤差は私の方かもしれないし、平安紋鑑にあるかも知れない。目下、結論保留中。

・同じベースを用いて、紋章の「三階菱」の形状を考慮して作図したもの。
一番上の菱が、一番下の菱の幅の直径の円に接している。
各種の紋帳で見慣れた三階菱となる。


* 武田菱について(分廻しと定規だけで作図する方法)

武田菱
伝統的な菱

各図において、赤色が最後に描く線、水色がその直前に描く線になっている。(2015.8.19)
菱の高さを求める 一辺の真ん中を求める その半径で他の辺を割る 各点を対角線で結ぶと菱が四つ割りされる

別の作図例
先ず菱の高さを求めたら、六つ割りを利用してその菱を四等分し武田菱を作図する。(2015.9.3)
基本円を六つ割り 赤線は基本円の半径を二等分する 赤線と菱の交点を対角線で結ぶ 菱を構成する線を太くする



* 三階菱について(旧稿)
さて、「古代模様 廣益紋帳大全 下」に掲載されている「三かい菱の割」図は「平安紋鑑」等とは、菱の置き方について細部に唯一の差異があるが、この下絵の方が多くの紋帳で見かける「三階菱」に似ている。
ここで改めて「平安紋鑑」において、巻末の「三階菱の割」図と、菱部門に掲載されている「三階菱」とを見比べると、私にはどうしても巻末に掲載されている「三階菱の割」図に沿って描かれていないように思えてならないのである。
これに対する私の解釈はこうである。
家紋の作図にあたっては、必ず守らなければならない部分と作図者(紋章上絵師)のセンスに任せて良い部分とがあるのではなかろうか? ということだ。この場合でいえば、菱の角度は必ず守らなければならない部分で、その菱をどういう大きさにして、どう重ねるかについては作図者にある程度の自由が許されていると考えれば納得がいくのである。

廣益紋帳 平安紋鑑
割り図
左図の菱を塗る 平安紋鑑
掲載図案

ちなみに、先の「家紋の話」で、著者の泡坂さんはこう書かれています。
・・・三階菱や松皮菱は、正しく描こうとすると、割り出し方の難しい紋です。紋帳にはその方法が説明されてはいますが、大変不親切な記述で、これは江戸時代も現代の紋帳も大して変わっていません。上絵師は長年の勘によって作図することが多く、丁寧な説明を必要としないからでしょう(P239)

確か泡坂さんの著書だったと思うが、この自由度があるが故に家紋が今日まで伝承されてきたのではなかろうか?といったことが書いてある本を読んだ記憶が私にはある。
例えば、丸の太さについては、
・・・一般的には紋の大きさの九分の一程度の太さの輪を用いることが多く、この輪を特に丸といいます。(泡坂妻夫著「卍の魔力、巴の呪力」(P18)

つまり、丸は紋の大きさに対して必ず九分の一の太さに描かねばならないということはないのです。その図案に応じて作図者(紋章上絵師)が座りが良い輪、見栄えが良い輪と思う太さで輪を描いて構わないという自由度があるのが家紋の世界なのでしょう。

ここで「紋の大きさ」について補足しておいます。紋の大きを知る為には紋の図案のどこを測るかを知っておく必要があります。以下に「平安紋鑑」と「紋之泉」に掲載されているものを紹介します。図説からわかる通り、図案の一番長い部分を測っています。ただ、、紋帳によって多少の差異があるようです。例えば、「梶の葉」紋です。これは紋帳によって微妙に図案の形状が異なっているから生じることであって、それぞれの図案ではその一番長い部分を測っていることに変わりはありません。

それが基本ではあるけれども、やはり例外があるようで、「平安紋鑑」をみれば、鱗紋系(三角形)や星梅鉢系(円の中に円が五つ)は、紋の図案の一番長い部分でなく円の直径を紋の大きさと考えていることが分かります。もっとも、どちらの場合も図案を円に内接させる為には直径の寸法が必要であるから、直径を紋の大きさと考えるのでしょう。

平安紋鑑 紋之泉


「稲妻菱」の作図 (2014/10/7)

「平安紋鑑」に紹介されている<菱の割り>
・先ず立筋を引て分廻しを廻して外輪をこしらへ上下にて各外輪の八分の一をへらして菱を立るなり

これを参考にPCで作図すると以下の通り。
8等分にする 菱を描く 稲妻作図 稲妻菱

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